Winter on fire@Netflix

表題の映画を見た。

 

衝撃だった。ウクライナへの侵攻が始まった2022年2月24日、私は国境を目指す市民の車列をみて、これまでの暮らしをすべて捨てて避難せざるを得ない人たちの姿を思い浮かべた。

 

その、暮らしというのは、平和で安全な、日本と大差ないものであると考えていた。

 

しかし、2014年の時点でとっくに紛争状態だった。

本作では、2013年3月から2014年2月までのユーロマイダン運動について取り扱っている。

当時の首相・ヤヌコーヴィチの腐敗政治を正し、EUへ加盟することを要求していた平和的な市民によるデモ活動である。日増しに高まる抗議の声に対して、政府は【ベルクト】というウクライナ警察を派遣する。

【ベルクト】は鉄のトンファーで容赦なく国民の頭や背中をなぐる。

これは内紛だと思うのだけれど、クリミア侵攻のニュースが流れたとき、この運動について、日本は報道していたのだろうか?正直、私の記憶には残っていないのだけれど。

 

知らないことばかりだった。

 

【ベルクト】に殴られた男性の頭が割れて、脳漿のようなものが道路に落ちているのが見えた。倒れた男性の頭を止血している人が叫ぶ「このままでは命が失われてしまう」

 

頭から血を流す男性の姿は、何度も出てくる。すべてデモの参加者たちだ。知らない世界だった。【ベルクト】は倒れた人たちの頭を何度もたたくし、倒れても容赦しない。眼球を狙うので、一部の人たちは目から血を流していた。眼球を失った人たちを見て、救護する人はパニック発作に見舞われたという。

 

ウクライナ政府は退陣の要求に従わず、国民が集会を開けぬよう、開いても無力化できるように、ヘルメットをかぶることを違法にしたり、5台以上の車列を作った場合は逮捕できるように制度を作る。

 

市民は反抗し、ヘルメットの代わりに鍋を頭にかぶる。「逮捕してみろ」と。

 

状況は悪化し、【ベルクト】の武器は鉄のトンファーから銃に変わる。

 

銃弾は始め、ゴム弾が使用されていた。ゴム弾は殺傷能力が低いとはいえ、命中すれば負傷する。それなのに、意図的に本物の銃弾をも混ぜて発砲している。

銃創はすぐに手当てをしなければならないが、救護しているそばから新しい負傷者が運ばれてくるので、救護を担当していた人は、「助かる人を優先しなければならなかった」と言う。

 

日本のニュースを見ていた時、それはクリミア侵攻のニュースだったのだけれど、この前後関係について説明しているものはなかったと思う。

 

脱力感。日本の報道番組に価値なんてあるのか?

 

この映画は2015年に公開されたものらしい。Netflixが無ければ、一生知らずに生きていただろう。

 

この映画がたった三か月間の記録であることに呆然とする。同じ年の3月にクリミア侵攻が始まったことにも。ウクライナ人はまずウクライナ政府と戦い、少なくない死者を出しながらも、勝利を得た。ヤヌコーヴィチはロシアに亡命し、【ベルクト】は解体された。さらにEUに加盟することもできた。映画の締めくくりでは、ウクライナの人々の笑顔が映し出されていた。しかし、この一か月後にクリミア侵攻は始まったのだった。

 

ウクライナの人々は、平和ボケした日本人よりもよっぽど切羽詰まった状況にあり、昨日今日急に銃を持って戦う人達ではなく、もう8年間も戦い続けている人たちなのだということがわかった。

 

私たちにできることはウクライナに寄付することだけなのだろうけれど、一方で、どこまでさかのぼればこの戦争を止めることができたのだろうか?ロシア人は気が付くのが遅すぎた。私たちは?